立ち読みは犯罪か

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101030-00000113-san-soci
http://atsupeugeot.seesaa.net/article/17123826.html
本屋での立ち読みは泥棒と変わんないだろと言われました。 - 自分は本が好き... - Yahoo!知恵袋

立ち読みは権利か,というと当然そんなことはない。
売却前の物の所有権は,売主にあるのは通常なので(他人物売買は一般的ではない。所有権留保とかされてるかもしれないが),その使用収益処分権は,売主である書店(法人でない場合はそのオーナー)にあり,書店が買わないやつには中は一切みせたくない,といえばそれで終わり。
現状の立ち読みは,書店の(黙示の)承諾によってなされているものに過ぎない。
ただ,実際には,購入する商品を確かめるということは,多くの売買でなされているので,俯瞰してみれば,その承諾はよくあるべき慣習とも言えなくはない。


書籍特有の問題は,商品を確かめる=中を見るという行為が,本来の書籍の効用享受と完全に合致してしまう,ということである。
例えば,PCを購入しようとして,その使用感を確かめるために一時使用したとしても,PCの効用享受とは,継続的使用にあるから,本来の効用享受はなされていない。
それはあくまでも試用に過ぎず,試用しても客に効用を享受する余地が十分に残る。


一方,書籍は,一読するのが本来の効用享受なので,一度試し読みされてしまえば,効用は享受されてしまう。
この場合は,購入した場合に比して,何度も読み返すという効用がわずかに残るが,それは全読者に共通する効用足りえない*1


この点は,飲食物に近い。試しに全部食べさせてしまえば,効用は残らない。
そこで,商品の確認と,効用の残存を両立させるために,試食があるように,一部の試し読み,というものが考えられることになる。
例えば,活字の本は,読了に時間がかかるので,立ち読みですべて読むのには時間と根気がかかり,期せずして試し読み的立ち読みになることになる。
しかし,漫画や写真等を多用した雑誌など,読了に時間が掛からない書籍はそうは行かないことになる。
そこで,例えば,一部の書店では,漫画に関しては,冒頭数十ページのみを読めるようにしてあったり,お試し用として一部のページだけを抜き出したブックレットをおいてあったりする。


だが,これをすべての本にするのは手間がかかる問題もある。まあ,新刊漫画だけやっているようではあるが。


さて,余談はこのぐらいにして,本命の立ち読みの犯罪性だが
窃盗罪に当たらないことはおそらく争いがないだろう。

刑法
(窃盗)
第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

となっており,窃盗罪の客体は財物に限られている。
財物とは,有体物が原則で,唯一,刑法245条で,電気が財物と擬制されているに過ぎない。

(電気)
第245条 この章の罪については、電気は、財物とみなす。

すると,有体物でないもの,情報等を盗む行為は,窃盗罪には当たらない。
これを利益窃盗というが,不可罰である。
罪刑法定主義から,刑罰の対象は法律で定められている必要があるところ,利益窃盗に該当する犯罪は何ら規定されていないからである。


窃取とは,他人の所持(占有)している財物をその人の意思によらないで取得することであり,財物に対する自己又は第三者の占有を設定すれば既遂に達する*2


立ち読みでは,占有という支配の状態*3は,未だ店側にあり,客には写っていないから,財物の占有の取得はない。
とすると,客が取得しているものは,本に記載されている情報であって,情報は財物ではないから,利益窃盗に過ぎない。
したがって,窃盗罪を構成しない。


ただ,立ち読みによって本をボロボロにする行為は,器物損壊罪を構成しうるが,故意が必要である*4


刑法的には,立ち読み行為は,ここが限界だろう。
一方著作権法を考えても
複製権,上演権・演奏権・上映権・口述権,公衆送信権等,翻訳権、翻案権等,展示権,頒布権,譲渡権,貸与権といった,著作権支分権や著作者人格権を何か侵害しているかというと・・・・・
著作権法上,使用権というものは規定されていないし。


法的には立ち読みは現状でこの程度のもの,ということである。
店側で自己工夫するしかないであろう。


それにしても,マナー違反(道徳規範のレベル),民事法ないし行政法規違反,犯罪(広義の刑法違反)は区別して論じて欲しいものである。
制裁がまるで異なるのであるから。

*1:陳列用,コレクション的な効用もあるにはある

*2:のが通説である

*3:窃盗罪では事実上の支配に限られる

*4:もちろん,未必で足りるので,立ち読み行為の認識と,本を損壊する結果の認容で良い。認容説に立つと。