もうこれで最後だといいなぁ。

最高裁第一小法廷 平成22.12.16 平成21(受)1097 持分所有権移転登記手続,遺産確認,共有物分割請求本訴,持分所有権移転登記手続請求反訴事件
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101216145711.pdf

この判例をみて,ちょっと自分の理解があやふやになってきたので,自分の頭の整理のためにここに上げてみます。
事案は共有が入っていますが,単純化すると,X→Y 本件土地贈与,Y→Z 本件土地相続
ZからXへ,X→Zの真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続請求
といった感じです。
この判例によると

不動産の所有権が,元の所有者から中間者に,次いで中間者から現在の所有者に,順次移転したにもかかわらず,登記名義がなお元の所有者の下に残っている場合において,現在の所有者が元の所有者に対し,元の所有者から現在の所有者に対する真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を請求することは,物権変動の過程を忠実に登記記録に反映させようとする不動産登記法の原則に照らし,許されないものというべきである。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101216145711.pdf

となっているので,X→Y→Zと順次所有権が移転した場合で,登記がXに残っている場合,ZはX→Zへの真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続請求(一種の中間省略登記として)をすることはできないと解されます。
この判例は,小法廷判決なので,判例変更はない方向で解釈するのが本来です。


しかし,判例は,真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続請求自体は認めています。
典型例は
X→Y→Zと順次不動産が売買され,そのとおり所有権移転登記がなされたけど,X→Y売買が無効であった場合,Xは,YへのX→Yの所有権移転登記抹消登記請求及びZへの前記抹消登記の承諾請求をすることに代えて,Z→Xへの所有権移転登記をする場合,です。
最高裁昭和30年7月5日・民集9巻9号1002頁
最高裁昭和32年5月30日判決・民集11巻5号843頁
など。


そもそも真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続請求自体が,一種の中間省略登記になるわけで,それが認められる理由として,物権変動の過程を忠実に登記記録に反映させることよりも,現在の権利関係の表示をより重視すること,などが言われますが。


にもかかわらず,本件判例不動産登記法の趣旨から,これを許さない理由がよくわからない。
不動産登記法の改正によって,法の趣旨が,物権変動の過程を忠実に登記記録に反映させることをより重視するようになった,とも考えられますが,一応の法務省見解では,中間省略登記に関する見解は変わっていない,とのことらしいので*1,法改正で趣旨が変わったとは考えにくいのですよね。

そもそも,法の趣旨が変わった場合には,判例変更にならないのか・・・・?
事案が違うから,判例変更ではないといってしまえばそれまでですが。


中間省略登記についての判例

最高裁昭和38年6月14日判決・集民66号499頁
しかして、原判決は、本訴請求を認容するにあつて、被上告人個人が直接上告人に対し右登記請求をなしうる理由について何ら説示するところがない。本件がもし中間省略登記を求める趣旨であるとすれば、その省略につき、登記名義人、中間省略者の同意あることの認定判断を要するものと解するのを相当とするところ、原審がこれに何ら触れることなく、被上告人の本訴請求をたやすく認容した点に審理不尽ないし理由不備の違法あるものというべく、

最高裁昭和40年9月21日判決・民集19巻6号1560頁
実体的な権利変動の過程と異なる移転登記を請求する権利は、当然には発生しないと解すべきであるから、甲乙丙と順次に所有権が移転したのに登記名義は依然として甲にあるような場合に、現に所有権を有する丙は、甲に対し直接自己に移転登記すべき旨を請求することは許されないというべきである。ただし、中間省略登記をするについて登記名義人および中間者の同意ある場合は別である。

と,登記名義人に加えて,中間者の同意を要求しているわけですが

これらの判例とは特に矛盾しないので,その点での判例変更はありません。
むしろ,これらの判例を前提にすると,今回の事件で真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続請求を認めてしまうと,中間者の同意がなくても真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続請求で,X→Zの直接の移転登記請求が認められてしまうことになりかねないから,それに枷をはめた判決なんですかね。
上記の真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続請求の典型事例では,そもそも,X→Y,Y→Zの各登記が,実体に反した無効な登記なわけですから,中間者的位置づけのYの同意とか,利益といったものを観念する必要がないといえ,その意味で,単なるX→Y→Zの物権変動があった場合において,本来有効になされるべきX→Y,Y→Zの登記を省略する,という場合とは,まさに事案が違う,ということになり,矛盾はないことになるように思えますが。


あと気になるのは,ZはYの相続人だから,YのXに対する所有権移転登記手続請求権も相続すると思うわけですが,それでもYに一旦贈与があって,YからZに相続で移転した,と物権変動の過程を登記に載せなければならないのでしょうかね。
実体法的には,Y→Zは包括承継だから,物権変動などあってなきがごとし,といった感じもしますが。

だから,

そして,本件訴訟における被上告人X1の主張立証にかんがみると,被上告人X1の反訴請求は,これを合理的に解釈すれば,その反訴請求の趣旨の記載にかかわらず,予備的に,本件土地について本件贈与を原因とする上告人からAに対する上告人持分全部移転登記手続を求める趣旨を含むものであると理解する余地があり,そのような趣旨の請求であれば,前記事実関係等の下では,特段の事情のない限り,これを認容すべきものである。
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101216145711.pdf

などという判旨がでてくるのだと思いますが。
逆に言えば,↓で町村先生が述べられているように,もう本件不動産についてはY=Zなんだから,もうYの同意があるってことで,X→Zの中間省略登記ってわけにはいかなかったんですかね?
うーん,よくわからない。
まあ,争いになっているから,登記名義人Xの同意はないわけなんですけど。
Xには,X→Yの登記をすべき義務はあっても,X→Zの登記をすべき義務はないということで,Xに同意を要求するのでしょうか。

参考URL
arret:中間省略登記が請求されたとき、裁判所がすべきこと: Matimulog
最高裁:中間省略・真正な登記名義回復 - g-note(Genmai雑記帳)

*1:あくまでも,もともと中間省略登記は判決によらない限り認めないスタンスだったが,登記原因証明情報を申請書副本で代用できたから,中間省略された申請書副本を提出することによって,登記官から中間省略が確認できないようにして登記できていてたに過ぎず,不動産登記法の改正によって登記原因証明情報を申請書副本で代用することが不可能になったため,虚偽の登記原因証明情報を作るか,いちいち判決を取らない限り不可能になったに過ぎず,法務省見解は変わっていない。