会社法の制度上の疑問

吸収合併においては、株主総会特別決議*1による合併承認決議*2が必要なのが原則です。
しかし、存続会社から消滅会社に交付する合併対価が、存続会社の純資産額の5分の1を超えない場合においては、例外的に、合併承認決議*3は原則必要ないとされます(簡易合併)*4
ところが、例外の例外(の一つ)として、存続会社が全株式譲渡制限会社*5の場合において、合併対価として存続会社の譲渡制限株式*6を交付する場合には、簡易手続はとれず、株主総会をしなければなりません*7


一方で、吸収合併において、消滅会社が存続会社の特別支配会社(消滅会社が存続会社の総株主の議決権の90%以上を保有している場合等を指す。)*8である場合にも、もう一つの例外として存続会社側での合併承認決議*9は原則いらないとされます(略式合併)*10
こちらにも例外の例外として、存続会社が全株式譲渡制限会社の場合において、合併対価として存続会社の譲渡制限株式を交付する場合には、略式手続はとれず、株主総会をしなければなりません*11


簡易合併が例外の例外を設けた理由は
簡易合併はあくまでも、対価の少なさから存続会社に与える影響が軽微なため、総会で承認を得るまでもないだろう、と言う制度であることを前提に
全株式譲渡制限会社において新株発行をする場合には常に総会特別決議が必要なこと*12との兼ね合い上、対価が全株式譲渡制限会社たる存続会社の譲渡制限株の場合には、存続会社において新株発行をすることと同義のため、対価の多寡とは別の問題として、総会決議を要求する、ということでわかります。


しかし、略式手続の意味は、消滅会社が存続会社の特別支配会社ということは、存続会社の株主総会では消滅会社が議決権行使をすることによって、必ず総会特別決議(総株主の議決権の3分の2で足りる)が通ってしまうから、やるだけ無駄だ、というもののはずです。
略式の場合は結局、新株発行の総会決議も通るはずです。なぜ総会決議が必要なのでしょうか?


これが、消滅会社側の略式合併の例外についてならばわかります。
消滅会社側の略式手続は、存続会社が消滅会社の特別支配会社の場合ですが*13、この場合にも例外として、消滅会社が公開会社*14で種類株式発行会社で無い場合において、合併対価が譲渡制限株式である場合には総会決議が必要とされます*15


これは、譲渡制限の無い株式を定款変更によって譲渡制限株式に買える場合において、定款変更承認の株主総会の決議要件が特殊決議になっていること*16との兼ね合いで、消滅会社株主の譲渡制限の無い持株が、譲渡制限株式に転換させられてしまうという点で、同視できるから、当該合併承認決議は総会特別決議ではなくて、特殊決議*17になっていることからくるわけです。


特別決議が議決権ベースで過半数の出席がある総会において、議決権の3分の2で可決するのに対して、特殊決議は議決権を行使できる株主が頭割りで半数出席して、その議決権の3分の2で可決するものですから
仮に特別支配会社が一人で90%の議決権を握っていても、他に少数派株主が一人も総会に出席しなければ総会の定足数を満たさず、可決できないということになります。
すると、議決権の90%を握っていたとしても必ず可決できるとは限らない決議、これが特殊決議なわけです。
だから、略式手続がこの場合はとれないことになるわけです。


そこで、存続会社側に戻りますと、こちらの決議はあくまでも特別決議なわけですから、略式の要件があれば必ず通るはずなのですが・・・・・


うーん、理由がわからない。

*1:309条2項12号

*2:795条1項

*3:795条1項

*4:796条3項柱書本文

*5:2条5号参照

*6:2条17号

*7:796条柱書ただし書

*8:468条1項

*9:795条1項

*10:796条1項本文

*11:796条1項ただし書

*12:199条2項、309条2項5号

*13:784条1項本文

*14:2条5号

*15:784条1項ただし書

*16:309条3項1号

*17:309条3項2号