厳罰とその問題

まー車の事故が多いけど、とりあえず酒飲んで車乗る奴は免許を即取り消しで悪質な場合は免許取得資格を永久剥奪してもいいと思うね。


ただそれは本題じゃなくて、言いたいのは刑罰の厳罰化について。
免許剥奪は刑罰じゃなくて行政罰なんで、直接の関係は無いわけですけど。
ディス界には特に多いけど、厳罰*1が抑止力をもつってやつ。
飲酒運転防止のために刑法208条の2危険運転致死傷罪を制定したわけじゃないですか。
それで、いったんは減ったんですよ、飲酒運転の事故。
でもまた増えてんですよね。もう慣れちゃったんですよ。


まあ、ディス界ではそれでも短い間でも減らせたからADじゃないかってナンセンスな議論を交わすんでしょうけど、こんなの本質的な意味での抑止力がほとんどないように感じられますね。
だって、刑罰の厳罰化の公表にはそれなりの抑止効果があったけど、刑罰自体には効果がないから慣れたら増えてきてるような気がしません?
厳罰化が犯罪防止に役立つなんて与太話を本気で信じている人が多いのには困ったモンです。
さらに問題なのは被害者家族の感情を満足させるために厳罰化しろって。
と、話がそれたので、被害者感情は次の機会に。


んで、厳罰に本質的抑止効果があるかどうかについてはまあ、いまだ学者さんの命題なんでそれはおいておくとして
とりあえず厳罰化には問題点があるんですよ。
厳罰化しますよね。それでまあ数年は減少するわけです。その後慣れちゃってまた増加するわけですよ。
そうすると、厳罰主義者の人たちは、まだ刑が足りないと叫んでまた厳罰化すると。
んで気がついたら刑がどんどん重くなっていくわけですよ。
ましてやコレに被害者感情なんて入れてしまった日には・・・・気がついたらすべての犯罪の最高刑が死刑になったりして。
それでも結局慣れちゃって犯罪が増加したりしてね。おっとまたそれた。

しかしまあ、そんな社会息苦しくっていやですよ。これは、厳罰化だけじゃなくて、なんでもかんでも犯罪にして刑罰を設定しようとする動きに対してもいえますが、規制が多すぎるとそれは反近代社会じゃないですか?特に刑罰規制は最後の手段と考えたほうがいいと思うんですよね。
すくなくとも僕には、ユダヤイスラム北朝鮮みたいな社会は生きづらいです。


んで、厳罰化にはそれとは別の問題があって、抜け道を探したり、逆に新たな犯罪の引き金になったりするんですよ。その犯罪をしちゃった人が。
例えば、出資法の上限が利息制限法と同じになったら闇金がはやるとかいう考えもそうですし
あるいは、飲酒運転の場合は、ひき逃げが横行したわけです。
その場で自首しちゃうと、危険運転致死傷罪の可能性が高い*2ですけど、逃げて次の日出頭すれば業務上過失〜罪と道交法72条1項の救護・報告義務違反の併合罪*3だけで、最長でも懲役7年6ヶ月*4危険運転致死罪の最高刑は20年、危険運転致傷罪でも最長15年なので、大分違いますね。*5

だから、ひき逃げが横行したんですよ。そのおかげで、すぐに救護すれば助かったかもしれない命が死んだわけです。
なんで厳罰化してもいいことばかりとは限らないんですね。
んで、ここでひき逃げもとめようと刑罰を新たに設定したり厳罰化したりすると連鎖的に色々とどんどん厳罰化していって人は運転もできなくなると。
あるいは、慣れちゃって結局犯罪は減らないと。


厳罰至上主義者達ははっきりいってアホですな。これで抑止効果がなかったとしたらもっとアホです。


ちなみに危険運転致死傷罪と、業務上過失致死・傷害罪との間にどうしてこんなに刑罰の重さに差があるかというとですね。
責任主義とか責任応報という概念がありまして、日本の刑法は責任に応じた刑罰を科されることになっているわけです。んで、この場合の責任とは故意のことなんですね。わざとやったんだから責任があると。
だから刑罰って原則故意犯が対象*6なんですよ。ただ、例外的にいくつかの場合は過失にも責任を認めると。
過失=ミスがあるんだから責任があるじゃんって反論があるかもしれませんが、この場合の責任はあくまでも刑事責任、すなわち刑罰をもって制裁しなければならないほどの責任があるか、です。過失の場合は悪気はないんだから、普通は刑罰まで与える必要はないってことです。そりゃ勿論人を死なせてしまったりとか、重大な場合は必要あるので例外があるわけです。
よって、過失の場合も罰するという規定が無い限り、故意じゃなければ罰せられないのです。例えば、過失による器物損壊は犯罪ではありません。あ、でもあくまでも刑事責任がないだけで、民事責任は別なので損害賠償の可能性はありますよ。
二重人格者等の重度の精神病患者が刑法39条1項により心神喪失者として不可罰になったり、酔っ払いが心神耗弱者として刑法39条2項より刑が減軽されたりするのは、故意等の責任を問うのが難しいからなんですよ。
精神障害者が罰せられないのは不公平だとかいっちゃいけません。ちゃんと理由があるんです。


んで話を戻すと、
だから、故意の方が過失より大分責任が重いわけです。
そこで、両犯罪の刑法典に記載されている場所を見てみると、
211条1項の業務上過失致死・傷害罪は「過失」の文字が入っているのでわかると思いますが、刑法28章:過失傷害の罪というカテゴリに属し、故意犯の例外たる過失犯の規定なのに対して、208条の2の1項たる危険運転致死傷罪は刑法27章:傷害の罪というカテゴリに属し、刑法の原則たる故意犯にあたるわけです。
ちなみに、204条から208条の3までが27章で、209条から211条までが28章です。


よって、酒のんで車を運転する奴は、事故を起こすという故意がある奴と同視されても致し方なし、という判断があったので故意犯扱いになり、はるかに重い刑罰が規定されているわけです。まあ正確には、未必の故意のような概念を使うのでしょうが。


あーつかれた。
とにかく、厳罰化反対。むやみに新しい罪刑作るのも反対。

*1:厳罰化ではなく、厳しい刑罰そのものという意味

*2:実際は結構検察側の立証責任のハードルが高いので、最初から刑法211条1項の業務上過失致死罪または業務上過失傷害罪で立件してしまう場合も多いし、危険〜で立件しても裁判所で認められなかったりする

*3:刑法典上にひき逃げ罪という犯罪はない。

*4:業務上過失致死が刑法211条1項より最長5年、救護義務違反が道交法117条より最長5年。併合罪なので刑法47条より5+5×1/2=7.5となる。

*5:まあ一応他にも、刑法218条、219条に保護責任者遺棄罪というのもありますが、これはなかなか成立しないので。

*6:刑法38条1項参照