続・お勧め参考書

続きです。
今日は商事法、行政法、経済法です。

バイブル。とりあえずこの本なしに会社法は勉強できないといっても過言ではないでしょう。
辞書的に使う本のはずが、事項索引の使えなさはぴか一なので*1、最初はとても使いこなせない本。
しかし、気がついたら読めるようになっているから不思議。索引で引くのではなく、目次で引くのがポイントなので、まず会社法の概略をつかみ大体どこに何が記載されているかを把握することがこの本を読むポイントでしょうか。僕は半年ぐらいかかりました。
逆にこの本を引きすぎてどの基本書も索引より目次で検索するクセがついてしまったぐらいです。


読めるようになると内容はつまっているので読むのも面白くなります。
実のところ、それほど深入りした本ではなく、およそ通常考えられる問題点等を触れられるだけ触れた、という本。つまり広く、そんなに深くはなく、という本です。
この本は、他の基本書のリファーがほとんどなく、基本的に論文をリファーしているので、深入りしたい場合は論文を読むべし。
時間がない純粋未修者があまり深入りしすぎると試験的にはアウトですが、任務懈怠の吉原和志論文*2利益相反の田中亘論文*3など、新司法試験的にも読むと理解に寄与する論文が多数上がっています。
判例も類を見ないほどに豊富なので、余裕がある限り参照してみるといいと思います。


といっても短い文に含蓄が詰まっていますから、この本だけでは答案がかけない、という本ではないです。神田会社法とはその点で違います。
脚注に真価がありますので、脚注を飛ばして本文だけを最初は読めばそんなに厚くないから読み下せる、みたいなウエテツ民訴のような使い方はしない方がいいと思います。
慣れればあの脚注を読むのも苦痛ではなくなり、面白くなります。


なお、新司法試験的にこの本を読み下さなければ足りないわけではなく、実際に自分の本で使った部分(線、書き込みがある部分)をチェックすると3分の1にも達していないので、線をあまり引かない勉強法であることを差し引いても半分いくかいかないかぐらいしか必要ないのではないか、という気がします。
わずか1科目に900ページ超かよ、と引かずに取り組むべきことをおすすめします。
なお、どこを読めばいいのかわからない、という人は会社法事例演習教材を解くのに必要な箇所だけを参照するようにすれば、新司法試験的には足りるのではないでしょうか。


ところで、江頭先生は計算が好きなので計算の部分が相当分厚かったりします。計算がわからないと会社法もなかなかわからないので、試験的にはつかわねーよと毛嫌いせずに*4、計算もしっかり勉強することをお勧めします*5


実務的には非常に重要な非公開会社法についても相当紙面を割いてあることもポイント*6

僕が使っていたのは補訂版で、2版の出来まではわからないのですが、神田会社法+判例抜き出し+表、という択一対策用の本でした。
一部抜き出して比べてみると、神田先生の本の記述とそっくりで*7著作権どうなってんだ、というかんじの本でしたが、その分内容的にはまずまずです。


神田会社法を読みながら判例引くのがめんどくさい、表がないからわかりづらい、というような人向け。
シケタイの中では比較的長く使えるほうだと思います。僕は会社法始めて半年ぐらいたって江頭読めるようになってからめっきり開かなくなりましたが*8、最初はこれでした。
補訂版のころはシケタイは神田参考、C-Bookは江頭参考、というすみわけが出来ていたのですが、2版の参考文献をみると江頭がちゃんとあがっていたので江頭も織り込まれているのではないでしょうか。かなり2版で計算などがかなり分厚くなったので*9、入門に使うにはしんどいのかもしれませんが、選んで読めば大丈夫でしょう。

      • 相澤 哲、郡谷 大輔、 葉玉 匡美『論点解説 新・会社法―千問の道標』商事法務

会社法は学者と立案担当者の説が相当異なっている箇所が多いので、とりあえず立案担当者の説を勉強するためには、この本と商事法務掲載の立案担当者の新会社法の解説で勉強するといいと思います。
特に商事法務の解説は必読です。
新司法試験的には、立案担当者と江頭先生の見解が異なっている箇所だけ押さえておけば学説対立については基本的にはOKだと思います。たぶん。


なお、表が多いので択一的にも使えます。

僕は買っていませんが、会社法を表にした択一対策のためのような本。会社法の内容しか詰まっていないので、施行規則、計算規則等関係法令の内容は基本的に載っていないという特徴がありますので、株式交換で債権者異議手続が必要な場合とか、江頭を読むとこの本の表には載っていない内容が書いてあったりします。


人によっては表だけあっても覚えられないから、思考が追っかけられる書き下し文の方が択一対策にはいい、という人もいるようですし、一理あると思いますが、少なくとも覚えた後の最後の確認には有用だと思います。


      • 伊藤 靖史、 田中 亘、 松井 秀征、 大杉 謙一『会社法 (LEGAL QUEST)』有斐閣

執筆者が次代の筆頭学者集合、みたいな感じでそれだけでも買う価値あり、とかんじさせられる本。
まあ、出た時期が出た時期なので僕は買ってないのですが評判がいいので一応お勧めしておきます。
適度な厚さも勉強しやすいと思います。
基本書セットが神田+江頭から、この本+江頭になっていくのかもしれません。

全22巻予定なのに3冊しかでていませんが、中央経済社の逐条解説に比べて解説がニュートラルで使いやすいと思います。
受験生的に買う必要があるとは思えませんが、困ったときに引くと非常に役に立ちます。
2条について江頭先生が延々と解説を書いています。
(8)機関は新司法試験的にも読む価値があると思います。
立案担当者を痛烈に批判していたりします。

司法試験の問題を解説する本にもなっています。
解説が答案としては長すぎることは問題はないと僕は思うのですが、立案担当者説で書かれているので必ず江頭先生と見解が違う点をチェックすることが必要です。この本の解説を読んで覚えるのではなく、江頭先生等の他の学者の基本書にもあたるべきです。


択一部分についても、748番など疑わしい解答があったりしますので注意が必要です*10

      • 前田 雅弘、北村 雅史、 洲崎 博史『会社法事例演習教材』有斐閣

択一対策から論文対策まで万能の演習本。
解説がほぼないということから独学するには大変しんどい*11のですが、やって損はないです。
この答え*12をまとめたノートは宝物状態で、試験前はこればっか見返してました。


なお、この本の真価は、江頭、判例、裁判例を効率的に読み進めるためにある、といっても過言ではないでしょう。


一部*13と二部*14がありますが、二部は判例・裁判例がほとんどなく*15、机上事例的な部分が多くて執筆者にも明確な答えがないような状態らしいので、基本的には一部を重点的にやるといいと思います。
二部は条文で答えが出る択一対策部分と、企業再編の部分に注力すればいいのではないでしょうか。

事例演習教材ほど隅から隅まで、という形にはなっていませんが、問題が良質で解説もしっかりしているので、独学にはこちらのほうが向くと思います。そのうち本になると思います。
執筆者が6人いるので、人によっては高度かつマニアックな内容なときもあるのが珠に瑕。


僕の最終的な参考書は、江頭+千問+事例演習教材、でした。理解が進めば千問を115講に変えてもいいと思います。なお、僕は神田会社法を通読していない*16なので神田会社法については不明です。

  • その他商事法

商法総則・商行為については、江頭先生の商取引法がバイブルだと思いますが*17、新司法試験的には条文判例本で足ります。
江頭先生では厚すぎるけどもうちょっと勉強したい、という人には近藤光男『商法総則・商行為法 (有斐閣法律学叢書) 』有斐閣がいいと思います。


手形小切手については労力がかかる割りに点にならないので捨てたのでわかりませんが、丸山 秀平『基礎コース 商法〈1〉総則・商行為法/手形・小切手法 (基礎コース法学) 』新世社が、一冊で商法総則・商行為法、手形・小切手法をカバーできるのでお勧めです。
商法総合の授業の時だけ読んでました。後は使いませんでしたが。


通読しやすく、まとめ用にいいと思います。
公務員試験用の本なので、法曹向けとしては過不足がありますが、あまり過の部分はないし、解説書と構成が一致する部分が多いので読みやすいです。
若干古いので、判例の補充を積極的にする必要があります。行政法は画期的判決がかなりでているので。
なお、形式的行政行為論など、通説を離れた見解も結構あるのでその点は注意が必要ですが、自説主張の程度は程よいのでそれほど弊害はないと思います。


何だかんだで伝統的学説を踏まえて行政法を勉強するには、田中二郎を直接読むという選択肢を除けば、原田か、塩野を読まざるをえない、という印象を受けます。

      • 櫻井敬子 橋本博之『行政法』弘文堂

周りでは、まとめに原田ではなくてこちらを使う人が圧倒的多数でした。
原田よりも新しいのと*18、2色刷りで読みやすいのが利点です。
旧版では情報が細切れ気味で理解しづらく、かつ不正確な部分が散見されたのですが、たとえば不服申立前置主義で審査請求が違法に却下された場合に訴訟要件は具備するかなどが記述が書いてなかった部分が改訂でちょこっと付け足されてたりして*19、ましにはなっているようです。
岡田正則先生いわく、旧版は受験生を誤解させた戦犯扱いされていたのですが。行政事件訴訟法44条と民事保全法の関係とか。

最近でた芝池先生の一冊本。櫻井=橋本よりもまとめようとしてはこちらのほうが正確でかつわかりやすいと思います。まあ出た時期が時期なので買ってはないので一部読んだだけなのですが。
原田は古いので、この本か、あるいはリーガルクエストに通し一冊はシェアが移っていくような気がします。

      • 稲葉 馨、人見 剛、村上 裕章、 前田 雅子『行政法 (LEGAL QUEST)』有斐閣

リーガルクエストシリーズは執筆人がすごい。試験委員も混じってたりするし。
といっても買ってもなければ読んでもいないのでレビューはありません。とりあえず名前だけ挙げときます。
ってその時点でお勧め参考書から外れてるし。
まあ、執筆人は豪華ですから、それでお勧めってことで。

僕個人の見解としては、入門用に使うべきであるシケタイの行政法が恐ろしく使えない*20ので、行政法入門としてはこの本が最適ではないかと思います。
最高裁判事による行政法の入門書。
藤田先生の少数意見はしょっちゅう判例読んでいると読むことになると思いますが、基本的には触れられていません。非常にわかりやすく、文体も美しいです。さすがとしかいいようがありません。
口語体で読みやすいのも特徴。 縦書きのところが珠に瑕。
今思えば、国家と法の授業を受けているときにこれを読んでおけばよかった、というような気がします。


辞書的に使用する用。岡田正則先生いわく、研究者向け内容が多く通読には向かないので絞って読むこと、だそうです。
難解な部分も多いのですが、だんだんわかってきて読めるようになると、結局最後のほうはこの本を通読してたりします。


通説だ、などとも言われますが、必ずしも通説ではない独自説の部分も結構あるので注意が必要です。
たとえば、通達の違法確認のような客観訴訟も適法になりうるかのような記述があります*21


組織法についてはこの一冊を丸々つぶすのは新司法試験的には過大だと思います。公物法については塩野3を使うとしても、それ以外は原田などの通しの一冊で勉強すれば足りるのではないでしょうか。

概説(1)は新理論が多くて、宇賀先生の論文集みたいになっているのでわかりにくいことこの上なく、塩野を差し置いてあえてそこをがんばって読むほどの魅力も、時間の足りない純粋未修者が新司法試験対策として使う分には感じませんが、概説(2)の救済法は非常にわかりやすくまとまっていて、お勧めです。塩野先生よりもいいかもしれません*22
特に国家賠償法の部分は珠玉の出来で、他の基本書ではここまでわかりやすく解説しているものは見当たりませんので、必ずこの本にあたるといいと思います。
概説(3)の組織法は読んでないのでわかりません。

      • 高木 光 櫻井敬子、 常岡孝好、橋本博之『行政救済法』弘文堂

辞書的といっても内容がそれほど詰まっているわけではないのですが、コンメンタール形式の逐条形式なのでこちらに。内容的には入門書に近いですが、手元に一冊置いてこまめに調べるといいと思います。
救済法の条文で困ったときは読むといいと思います。行政手続法も乗ってますし。判例も引用が豊富で、百選に加えケースブックへのリファーもあり、勉強しやすいです。
択一用にも条文判例本よりもお勧め。最新判例は条文判例本のほうが豊富ですけどね。
国家賠償法の勉強はこの本と宇賀2がおすすめです。

僕の知る限りではもっとも優れた演習本。基本的にはこれをつぶせれば新司法試験的には足ります。
問題も新司法試験的ですぐれていますが、解説の出来もいいのが特長。ところどころ足りないところもありますが、「答案を読んで」のコラムなども受験生が解答を書く上で注意すべき点に触れていて、わかりやすいです。
最後の発展問題の解説もあればなお良しだったのですが。あれはかなり難しいです・・・・


同シリーズに憲法や民事法がありますが、憲法は解説の出来があまり問題に対する答案という形になっておらず行政法ほどの出来の良さはありません。
民事法は読んでないからわかりませんが、ちょっと厚すぎるような・・・・でも民法の演習本は分冊しているのが普通のことを考えるととんでもない量、というわけではないとは思いますが。


  • 経済法

入門書としては適しています。やや高度かもしれません。
試験委員の泉水先生が不公正な取引方法という新司法試験必出部分を執筆しているのもポイント。
下記基本書と著者がかぶっているのですんなり移行できるのもいいところです。

    • 基本書

新司法試験的には学説ではなく公取委の立場で答案を書くことが求められていることが、出題趣旨にも明記されているので、白石先生の本などよりも、こちらのほうが優れていると思います。
無味乾燥なところがあるので、読み物としては白石先生のほうが知的刺激があると思いますが、新司法試験、しかもただでさえ時間が足りない純粋未修者でさらに選択科目なわけですから、それでいいのです。

かつてスタンダードだった、根岸 哲、舟田 正之『独占禁止法概説』有斐閣、がやや古いことを考えると、この本がスタンダードだと思います。


ケースブックと編者が一緒なので食い合わせがいいのもポイント。なお、泉水先生は試験委員です。


といっても独禁法は改正されたので、この本でもなお古い、ということになるわけですが。改訂をまつなり、自分でフォローするなり必要になります。


    • 演習本
      • 土田 和博、岡田 外司博『演習ノート 経済法』法学書院

ちょうど早稲田ローで独禁法Ⅰ、Ⅱを教えている教授二人が編者なので買いました。
事例問題と一行問題が織り交ざった形式で、新司法試験対策にぴったりというわけではありませんが*23、ベーシック経済法を読み終えたあたり解いてみると理解が進むと思います。
一行問題は解説を読むだけでいいです。


  • まとめ

新司法試験が始まって、次から次へと新しい基本書や、演習本がでているので、僕が使っていた本が現在でも最適とは限らないと思いますので、あくまでも参考程度にお願いします。
たとえば、大隅健一郎・今井宏・小林量『新会社法概説』有斐閣なども、読んでいませんが評価は高く*24、事例演習教材との食い合わせもいいそうです。
民法は債権法大改正が待っていますしね。

*1:目次になるような基本的用語が索引一覧に存在しない、など

*2:p.428注1

*3:p.432注7

*4:実際会社法2の授業は計算メインなので早稲田ロー生からは評判悪いですが、後になるといかにあの授業の授業内容が役に立つかがわかります。といっても僕も受講当時は授業内容はチンプンカンプンで、ただただノートをとるだけでしたが、2年後期、3年、受験直前まで結局あのノートを何度も何度も読み返しました。

*5:しかも意外と試験で聞かれます

*6:はしがき参照

*7:語尾とかが微妙に変わっている

*8:最終的には択一も江頭で勉強していました

*9:軽視されていた計算が実は試験で必要なことに気がつかれたのでしょう。

*10:江頭先生に質問にいったら、この本の(立案担当者の)悪癖は文字通りの解釈に立脚しすぎているところだ、といわれました。千問はともかくとして100問は学者間では評判悪いそうです。

*11:問題レベルが高く、江頭にも答えが載ってない問題が結構あります。特に2部。

*12:私見ですが

*13:紛争解決

*14:予防法務

*15:神田他『商法判例集』に載っている判例は2~3件しかなく、それ以外もあまりない

*16:神田説を参照するために引いただけ

*17:改訂されたし

*18:つい最近改訂

*19:軽く書いてあって意識しないとよくわからないと思いますが

*20:シケタイは民法会社法民事訴訟法は入門書としていいと思います。憲法は分厚くなったので入門書としては使いづらくなりました。刑法、刑事訴訟法行政法は入門書としてすら使えません。逆に誤解したりして危険だと思います。ただ、民事訴訟法は藤田判事の講義民事訴訟法がでたのであえてシケタイで入門する必要があるのか疑問になりました。ところで、いきなり難解な基本書に当たると理解が進まなくていつになっても習得できないので、予備校本を毛嫌いせずに入門書と割り切って最初はシケタイ等にあたってみるといいと思います。科目は選んでですが。

*21:『Ⅱ[第四版]』p.238

*22:まあ公定力という用語を使わなかったりはするのですが

*23:もともと学部の試験対策用らしい

*24:江頭ですら取り上げていない最新論点にも踏み込んでいたりするようです。