おすすめ参考書

時期的に一区切りなので、僕がロースクール在学中+受験に使った参考書についてレビューしてみようと思います。
とりあえず、お勧め参考書です。


(入門書で概略)→厚い本(辞書的使用)→薄い本(まとめ)
というのが基本だと思います。薄い本の内容が理解できるようになれば、それで一応の完成、という形です。
さらに、新司法試験はとにかくまず判例を押さえ、ついで通説を抑えるというのが重要*1なので、自説を述べている体系書は避け、学説のまとめに力を割いている本はあくまでも辞書的に使用するのが正しいと思います。
通説・判例ですっきりかつ正確にまとめている本を読み下すところに重点を置くべきです。
その意味では、amazonレビューなどで退屈・つまらないなどと書かれている本のほうが使えたりすることが多いです。知的好奇心を刺激する本は内容が通説判例から離れていることが多いからです。
学者・研究者あるいはその志望者からのレビューは話半分ぐらいで読むといいと思います。

やや古いけれども、すっきりしていてまとめに使いやすいです。判例は自分で補充するとして、とりあえずこの一冊でまとめるといいと思います。
独自説もあるので、そこには注意を払いましょう。
3月までの基本書。

4人組を読むのがあまりにも苦痛だったので、辞書的にはこちらを使用しました。判例のまとめ本としては優れているのではないでしょうか。

択一対策にはもちろん、最後の論文のまとめにも使用。なんだかんだいって使い勝手がいいです。
4月からの基本書?ではないけど、立憲主義日本国憲法から最後はこちらに切り替え。

かなり古いですが、違憲審査基準の部分だけでも読むのがお勧めです。
二重の基準論と、判例と、逆二重の基準の関係がすっきりします。エウレカです。


まとめ用。なんだかんだいってすっきりまとまっていて出来がいい。
誤字・誤植が多いのが玉に瑕。
Sシリーズやダットサンでは不安が、という人はこちらがお勧め。Sよりも出来がいいのではないか、という気がします。
家族法もそろっています。
まとめに使うといいと思います。
ケースも多く、通説的見解を中心に記述が割いてあるのでまずはこの本を理解できることを目標にするといいと思います。

恐ろしく出来のいい基本書。基礎という言葉に惑わされて入門書と思っていてはいけません。
入門から発展までこれひとつで解決。
というか、総則はこれが理解できれば他の本は要らないと思います。
活字を追っかければ思考を組み立てることができる本です。

辞書的に使用するに向きます。レジュメのような本です。
思考を追っかける本ではないのですが、いったんわかっていて調べるにはこちらの本のほうが使い勝手がいいです。
一度講演をお聞きしましたが、山本先生のまとめる能力はすばらしい。
佐久間先生、山本先生にさらに潮見先生がいる京都大学民法はなんてすごいんだ!という感じで脱帽です。

総則同様に出来がいいです。佐久間先生はすごい。お勧め。


Sの物権は出来がいいです。

欠番。
これといってお勧めの本がありません。
佐久間先生の担保物権がでると成文堂のおっちゃんに聞いたので買わないでいたら出ないまま・・・・
道垣内 弘人『担保物権法』は辞書的には使えると思いますが、読みやすくないし、とりあえず判例通説でまとめたい時間が少ない純粋未収者には向かないと思います。
結局近江先生や内田先生の本を使っている人が多いようです。

    • 債権総論

秀逸な本がそろっています。

鎌田薫先生いわく、現在債権総論の最高の基本書。非常にわかりやすく、辞書的に使用するには最良なのではないかと思います。

ケースが多いのが特長。潮見説は全面にはでていないので使いやすい。通して使ったわけではないのでコメントは控えますが、評判いいです。

      • 平野 裕之 『債権総論 (プラクティスシリーズ) 』信山社

学説、判例の発展の歴史がわかる、平野先生らしい本。潮見先生よりもわかりやすいのではないかという気がします。


Sも債権総論は出来がいいです。

一見しただけで辞書的に使用すべきとわかる、契約法の本。
よって、不当利得、事務管理不法行為は乗っていません。
契約法の要件事実についても辞書的に使えます。要件事実については記号が独特なのでなれないと使いにくいかもしれません。
レジュメ的内容なのは総則同様ですが、内容的には高度かつわかりやすく、手元に一冊置いておくと安心です。
通して読むのは大変だと思いますが。

要件事実も書いてあるし、基礎からわかりやすく解説してくれているので新司法試験的には使いやすいと思います。
ただ不当利得は類型論だったり、要件事実がそのまま使えるかは疑問の部分もないではないですが。
(2)の不法行為もわかりやすいそうです。僕は不法行為は使っていませんが。

不法行為はむしろこっちがいいと思います。通説判例に即した説明で、未修者が学ぶのに適しています。

京大出身の民法学者は化け物か、というのを駄目押しするような本。
現在、学説にのめりこむような勉強*2をしないならばこの本が最高水準ではないかという気がします。
厚いですが、辞書的に使用するため問題がありません。

    • 家族法
      • 『親族法相続法講義案』裁判所職員総合研修所監修

網羅的かつ通説判例で、辞書的に使用するには何だかんだで講義案が未収者には使いやすいと思います。

アルマも出来がいいです。薄い本でさらっとやりたい場合にはどうぞ。


  • 刑法
    • 通しの一冊

通称山口青。
刑法学会の第一人者であろう山口先生が、判例の立場から刑法を解説した本。
いまだに新司法試験対策としてこの本を超える刑法の本は出ていないと思います。
高橋則夫先生いわく、この本一冊で新司法試験には足りるそうです。
確かに、この本が理解できるようになれば新司法試験の刑法はもう大丈夫。
といっても入門書に使うには行間を読む能力が求められる箇所があり、むしろ難しいような気もします。
この本一冊だけでこの本が理解できる人はむしろ天才なのではないかと思います。
他の厚めの本を読んだ人向けの、まとめの一冊にお勧め。
実のところかなり高度な本です。判例のとる因果関係の考え方もきちんとかかれていると思います。
最新判例は自分でフォローしましょう。


一冊まとめ本として最近でた佐久間先生らの共著の『刑法基本講義―総論・各論』もありますがこちらは内容がいまいちで結局山口青は超えられていないと思います。
大体僕は刑法の本のできは因果関係に対する判例の見解についての解説の出来をひとつの目安にするのですが、あまりよくないと感じたので。

    • 総論
      • 刑法総論講義案』裁判所職員総合研修所監修

因果関係以外の部分は優れています。判例・実務に則り、行為無価値二元論で行く人はまずここから。
因果関係は判例は豊富なのですが、説明がいまいちです。客観的帰属論で書かれた本を別に読むことをお勧めします。


二元論の人のための各論の基本書。
共著の総論はなかなか冒険ですが、各論の出来は非常にいいです。よくまとまっていて辞書的に使用するのもお勧めです。
著者の一人の杉田 宗久判事は講義案を書いているらしいです。

    • 演習本

島田・小林『事例から刑法を考える (法学教室Library) 』有斐閣
刑法の論点を一通りつぶせる本です。
惜しむらくは解説の出来があまりよくないこと。細かい学説の議論に踏み入りすぎている気がします。
さらに、最後の「ひとつの考え方」はまったく使えないのであそこはパスしていいです。せめでそこだけでも判例で書いていてくれれば、錯綜した解説はほっぽって判例での解答の道筋がみえるのに・・・・・受験生のニーズがわかっていない・・・・
まあ、学者としては判例ベッタリなのは許せないのだとは思いますが*3
よって、本書の新司法試験対策上の正しい使い方は、事例→答案構成(→起案)をした後に、最初に書いてあるCheck Pointについて山口青の該当部分を引く、です。

出て瞬く間に話題をさらった本。
入門書にいい、という人と、薄すぎて初学者には理解できない、という人がいます。
どちらも正しいと思います。
個人的には入門書としてはこの本の表面的理解でも足りると思いますし、この本の行間を埋められる力があれば、民事訴訟法は新司法試験的には完成です。


3分の1ぐらいは要件事実の記述ですので、実務科目受講時にあわせて読むといいのではないでしょうか。僕は民事訴訟実務の基礎を受けてる最中にこの本が出版されたので、ちょうどよかったと思っています。
ただ、暫定真実の定義については、伊藤眞先生の本のほうがわかりやすいと思います。
手続き面にも紙面が多く割いてあり、何だかんだで択一の役にも立ちます。
まとめにお勧め。

      • 民事訴訟法講義案』裁判所職員総合研修所監修

藤田の講義民事訴訟法を補完する本として、こちらも藤田先生が書いているので相性が抜群。
講義民事訴訟法が内容面で基本書に向かないとしたら、講義案を基本書にすえればいいと思います。網羅的なので細かな学説の展開を除けば辞書的に使えます。

細かな学説の展開は高橋先生の重点講義を辞書的に使うといいと思います。僕はロースクール民事訴訟法に合わせてピックアップして読んでいました。

試験直前に出版された困った本。上記『講義 民事訴訟法』とペアになる本です。
判例ベースで抑えることが重要な新司法試験的にはこの本の登場でもはや重点講義はその役割を終えたのではないか、という気もします。
といっても、やはり重点講義がわかりやすい、という人も多いので一気にこちらに流れる、ということにはならないと思いますが。
試験直前にでたので、重要そうなところだけピックアップして読みましたが、『講義』とのリファーも多く、セットで買って損はないでしょう。
判例ベースでまとめてあって未修者には使い勝手がよいです。『講義』では薄すぎる、という人はこちらを参照するといいと思います。

文字に起こせば右にでるものはいないのではないか、などとも思わせる遠藤先生の本です。
民事法総合Ⅳの授業では、遠藤先生の授業は人気がありませんでしたが、それはあの抑揚のない平坦なしゃべり方ゆえのことで、書き起こした解説は珠玉の出来でした。
僕はしっかりノートをとったのですが、そのノートを後になって友人に上げたのですが、読み返せば非常にいいことをいっているからまじめに授業を受けておけばよかった、などといわれたものです。
民訴を独学で一まわしするのに向いています。法学教室連載時に比べて基礎事項が追加されたので、答案構成前にさらってみてもいいかもしれません。
法学教室の連載時に感銘を受けた記述がこの本にもちゃんと記載されていて、180頁の「教場での対話」部分は読んでみることをお勧めします。


何だかんだで講義+解析+講義案の藤田三点セットがこれからのローのスタンダードになっていくような気がします。




刑事訴訟法は学者が書いた本が本当に使いづらいので、実務家の本がお勧めです。
まずはこの本から読むといいのではないでしょうか。
判例も豊富で*4、かつそのまま引用してあるので、とにかく判例が最重要の刑事訴訟法においてはこの本を抑えることが何よりも重要だと思います。
公訴・公判法に関しては珠玉の出来です*5。捜査法に関しては割り切りましょう。
何でも刑事訴訟法も杉田裁判官がかいているとかどうとか・・・・・


講義案とかぶる部分も多いのですが、講義案のほうがわかりやすい部分もあれば、こちらにしか載っていない部分(前述訴因変更の要否の部分*6とか)もありで、どちらか片方ですませればいい、とは一概にはいえないところがポイントです。
捜査は講義案よりはまし、といったレベルです。
証拠法は講義案のほうがわかりやすいと思います。
判例はそのまま貼り付けてある講義案のほうが勉強しやすいように思いますが、それは人それぞれでしょうか。

    • 佐々木・猪俣『捜査法演習 理論と実務の架橋のための15講』立花書房

平良木先生の捜査法が10年近く改訂されない今となっては、この本が捜査法の決定版だと思います。上二冊では捜査法の勉強には足りないので。
佐々木検察官は、逮捕に伴う無令状捜索を除けば*7判例に反する見解はひとつもないので、検察官説なのではないか、という心配は基本的には不要です。
ただ、差押え目的物の被疑事実との関連性に関する記述は独自説かな、という気がします。個人的にはこの見解は筋が通っていると思うのですが、授業を受けた田中検察官は、試験で採るには危険な見解だと思う、とのことです。
あと、佐々木検察官は生徒との対話方式で記述してある講がいくつかあり、この部分は理解するのに骨が折れると思いますが、内容は詰まっていますのでめげずに読むといいと思います。


猪俣検察官は、時々検察官説らしき部分*8があるようにも思えますが、聞いてみると裁判例レベルではその説を採る裁判官もある程度多い割合でいるようなので、そんなに神経質になる必要はないと思います。
記述自体はわかりやすいです。


なお、別件逮捕関連に関しては、この本に書いてある要件喪失説なり、川出先生の実体喪失説*9なりが、違法収集証拠排除法則との関係でもっとも筋が通った説明が出来ていると思うので、お勧め。

    • 『増補 令状基本問題 上下』一粒社

捜査法について辞書的な本がほしいならば。裁判官が書いているので安心ですが、裁判官説も、判例がない部分については一枚岩ではないことがわかります。
裁判官の名前をみて参照するといいかも・・・・・?

    • 石丸 他『刑事訴訟の実務 上下』新日本法規出版

実務説の本を辞書的に使いたい場合はこれ。やや古いですがわかりやすいです。
特に伝聞証拠の部分がお勧め。
捜査は若干薄いので、やはり捜査法演習か、令状基本問題がいいと思います。

    • アルマ

N先生の執筆部分が特にできがいいとの評判です。T先生執筆部分には注意しましょう。

    • 酒巻連載

法学教室より。近いうちに本になると思います。

とりあえず今日はここまで。

*1:時間が足りない純粋未修者は特に

*2:まあ余裕がある人以外がそんなことをすると落ちますが

*3:特に実体法は

*4:訴因変更の要否についての平成13年の超重要判例とかなぜか載ってないのもありますが

*5:ただ、訴因変更の可否と、一事不再理効の部分の公訴事実の単一性と狭義の同一性の関係の説明の一貫性には若干疑問があります。

*6:ちなみにこの判例は池田裁判官が調査官なので調査官解説の中身が短くまとまって書いてあります

*7:「逮捕の現場」の解釈

*8:包括一罪と一罪・一逮捕・一勾留原則とか

*9:川出論文は、このテーマだけで本一冊の分量なので大変です。百選解説にも紹介されていますので概略はこれでつかむといいのではないでしょうか