なぜこんな法律に・・・・


最近やった金商法の問題をひとつ紹介しましょう。
金商法はどんだけわかりにくいのか、と僕が感じる例として。
僕の解答はこれであっているのか・・・・

仮想事例-公開買付
上場会社X社の買収を考えるA社がX社の株式を58%保有するB社と交渉を始めた。A社はX社の株式の過半数を取得したいと考えており、過半数取得が出来ないのであれば、この取引をやらない方がいいと考えている。他方、B社はX社株式を全て処分したいと考えており、それができないのであれば、X社の株式を継続して保有した方がいいと考えている。A社がB社の所有する全てのX社株式を公開買付によらずに取得することができるか。その条件は何か。

以下が、僕の考えた解答。


出発は、金商法27条の2第1項2号。
取引所金融商品市場外における株券等の買付け等(取引所金融商品市場における有価証券の売買等に準ずるものとして政令で定める取引による株券等の買付け等を除く。第四号において同じ。)であつて著しく少数の者から株券等の買付け等を行うものとして政令で定める場合における株券等の買付け等の後におけるその者の所有に係る株券等の株券等所有割合が三分の一を超える場合における当該株券等の買付け等」は、
同条1項柱書で
その株券、新株予約権社債券その他の有価証券で政令で定めるもの(以下この章及び第二十七条の三十の十一(第四項を除く。)において「株券等」という。)について有価証券報告書を提出しなければならない発行者の株券等につき、当該発行者以外の者が行う買付け等(株券等の買付けその他の有償の譲受けをいい、これに類するものとして政令で定めるものを含む。以下この節において同じ。)であつて次のいずれかに該当するものは、公開買付けによらなければならない。
として公開買付をしなければならないことになっている。

第一 同条1項柱書の要件該当性について
したがって、まず
(1)同柱書にいう「株券等」に該当するかが問題となり
次に、(2)当該株券等は、同柱書にいう「有価証券報告書を提出しなければならない発行者の株券等」かが問題となり
そして、(3)A社がやろうとしている取得は、同柱書にいう「買付等」に該当するかが問題となる。

(1)について
同柱書にいう株券等とは、「株券、新株予約権社債権その他の有価証券で政令で定めるもの」である
法律用語については、「その他」が用いられている場合に前にあげられているものと「その他」以下とは並列であり、「その他の」が用いられている場合には前にあげられているものは「その他の」以下の例示であると考える。
したがって、株券というのは、政令でさだめる有価証券の例示に過ぎず、株券であれば即「株券等」に該当するわけではない。
そこで、同柱書にいう「株券等」に関する政令を参照する。
当該政令とは、金商法施行令6条1項である。
同項1号は「株券、新株予約権証券及び新株予約権社債」をあげる。
しかし、同項柱書によれば、金商「法第二十七条の二第一項 に規定する有価証券で政令で定めるものは、次に掲げる有価証券株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式(第十四条の五の二において「議決権のない株式」という。)に係る株券その他の内閣府令で定めるものを除く。以下この節において「株券等」という。)とする。
となっているため、株券であっても議決権行使がまったくできない株式については、金商法27条の2第1項にいう「株券等」からは除かれることになる。
二重括弧になっているので読みにくいが、まず括弧を全部はずして読み、次に大括弧を小括弧をはずして読み、最後に小括弧を読めばいい。

本件では当該株式に議決権があるかどうか明記されていないが、問題文中における「買収」とは支配権の取得を意味するので、議決権のない株式を取得しても買収にはならないことになる。したがって当該株式は議決権がある株式であると考えるべきであり、当該「株券等」に該当する。

(2)について
めんどくさいので条文は引かないが、株式を上場している会社はこれに該当する。

(3)について
金商法27条の2第1項柱書における「買付等」に関する政令とは、金商法施行令6条2項であるが、本件においては通常の相対取引を希望しているのであろうから、施行令を検討するまでもなく、「株券等の買付その他の有償の譲受」といえる。
無償で株式譲渡はしないだろう。


第二 金商法27条の2第1項2号要件の該当性について
次に、金商法27条の2第1項2号要件の該当性が問題となる。
これについては
(1)まず「取引所金融商品市場外における株券等の買付け等(取引所金融商品市場における有価証券の売買等に準ずるものとして政令で定める取引による株券等の買付け等を除く。第四号において同じ。)」に該当するか
(2)次に「著しく少数の者から株券等の買付け等を行うものとして政令で定める場合における株券等の買付け等」に該当するか
(3)そして(2)の買付等「後におけるその者の所有に係る株券等の株券等所有割合が三分の一を超える場合における当該株券等の買付け等」に該当するか
が問題となる。
(1)より、取引所金融商品市場内の取引であるならば、公開買付強制はされないことになるが、取引所取引をすると、買付量に比例する形で、株価が上がってしまい、必要資金量が上昇してしまう問題がある。
B社の保有する58%もの株式を買おうとすれば、かなり株価があがってしまってA社が公正と考える買収対価以上の資金が必要になる恐れがある。
したがって、市場での買付は難しいので、この問題の趣旨は市場外で相対で買えるかを問うているのだと考えられる。
よって(1)は満たす。

(2)について
当該政令は、金商法施行令6条の2第3項である。
同項は
法第二十七条の二第一項(中略)第二号 に規定する著しく少数の者から株券等の買付け等を行うものとして政令で定める場合は、株券等の買付け等を行う相手方の人数と、当該買付け等を行う日前六十日間に、取引所金融商品市場外において行つた当該株券等の発行者の発行する株券等の買付け等(公開買付けによる買付け等、店頭売買有価証券市場における店頭売買有価証券の取引による株券等の買付け等、新株予約権を有する者が当該新株予約権を行使することにより行う株券等の買付け等並びに第一項第一号から第三号まで及び第十号から第十五号までに掲げる買付け等を除く。)の相手方内閣府令で定めるものを除く。)の人数との合計が十名以下である場合とする。
と規定され、つまり60日間で10名以内から取得する場合である。
なお、同項の内閣府令とは、「発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府
(平成2年11月26日大蔵省令第38号)」(以下、「TOB府令」という)の3条3項である。
同府令3条3項は「令第6条の2第3項 に規定する内閣府令で定めるものは、株券等の買付け等を行う者と、株券等の買付け等を行った日以前1年間継続して 法第27条の2第7項第1号 に規定する関係にあった者とする。
となっているが、本件ではこれにはあたらない。
なお、金商法第27条の2第7項第1号とは
株券等の買付け等を行う者と、株式の所有関係、親族関係その他の政令で定める特別の関係にある者」である。
当該政令は、金商法施行令9条1項ないし5項(本件でAは法人なので1項以外)である。これは長いので引用しない。

すると、本件ではA社はB社だけから買いたいので、60日間10名以下に該当することはあきらかであり、(2)を満たす。

(3)について
B社から58%のX社株のすべてがほしいので「株券等の株券等所有割合が三分の一を超える場合」に該当し、(3)を満たす。


以上の第一、第二より、当該A社B社間の市場外X社株取引については、原則として公開買付が強制される場合に該当する。
第三 公開買付規制の適用除外について
したがって、公開買付規制の適用除外が受けられないかを次に検討する必要がある。

適用除外については、金商法27条の2第1項ただし書に規定がある。
ただし、新株予約権を有する者が当該新株予約権を行使することにより行う株券等の買付け等及び株券等の買付け等を行う者がその者の特別関係者(第七項第一号に掲げる者のうち内閣府令で定めるものに限る。)から行う株券等の買付け等その他政令で定める株券等の買付け等は、この限りでない。
ここでは「その他」の文言が用いられているので並列である。
当該政令とは、金商法施行令6条の2第1項であり、当該括弧書における内閣府令とは、TOB府令3条1項である。

金商法施行令6条の2第1項は、1号ないし15号の15類型を上げるが、ここで使えそうと考えるのは4号である。
同項4号は、「特定買付け等(株券等の買付け等であつて、第三項に規定するものをいう。以下この項において同じ。)の前において当該特定買付け等を行う者の所有に係る株券等の株券等所有割合(法第二十七条の二第八項 に規定する株券等所有割合をいう。以下この節において同じ。)とその者の特別関係者(同条第一項 ただし書に規定する特別関係者をいう。)の株券等所有割合とを合計した割合が百分の五十を超えている場合における当該株券等の発行者の発行する株券等に係る特定買付け等(当該特定買付け等の後におけるその者の所有に係る株券等の株券等所有割合(その者に特別関係者(同項第一号 に規定する特別関係者をいう。)がある場合にあつては、その株券等所有割合を加算したもの。以下この節において同じ。)が三分の二以上となる場合を除く。)」 と規定する。
つまり、ある会社の株式の50%超の株式をもっているものは、3分の2までは公開買付規制の適用除外が受けられて、市場外で相対で取引ができる、という規定である。

ここでX社の株を50%超もっているのはBであってAではないので、Aは直接この規定の免除は受けられない。
しかし、同号は特別関係者との株券等所有割合の合算の規定をしている。
50%超の計算において合算される株券等所有割合の特別関係者は、金商法27条の2第1項ただし書の特別関係者である。
同ただし書の特別関係者とは「特別関係者(第七項第一号に掲げる者のうち内閣府令で定めるものに限る。)」と規定されている。
金商法第27条の2第7項第1号における特別関係者とは、上述したとおり
株券等の買付け等を行う者と、株式の所有関係、親族関係その他の政令で定める特別の関係にある者」(当該政令は金商法施行令9条各項)である。
そして当該内閣府令とはTOB府令3条1項である。
TOB府令3条1項は「法第27条の2第1項 ただし書に規定する内閣府令で定めるものは、株券等の買付け等を行う者と、株券等の買付け等を行う日以前1年間継続して 同条第7項第1号 に規定する関係にある者とする。」と規定しているので、問題となるのは、金商法27条の2第7項1号の関係が1年以上継続しているかどうかである。
この場合に27条の2第7項1号の関係として使えそうなのは、Aが法人なので金商法施行令9条2項3号である。
同項3号は、「法第二十七条の二第七項第一号 に規定する政令で定める特別の関係は、株券等の買付け等を行う者が法人等である場合には、次に掲げる者との関係とする。 (中略)三  その者に対して特別資本関係を有する個人及び法人等並びに当該法人等の役員」 と規定。
したがって、特別資本関係がある法人間は金商法27条の2第7項1号の特別関係者に該当する。
特別資本関係については、金商法施行令9条3項に以下の規定がある。
法人等とその被支配法人等が合わせて他の法人等の総株主等の議決権の百分の二十以上の議決権に係る株式又は出資を自己又は他人の名義をもつて所有する場合には、当該個人又は当該法人等は、当該他の法人等に対して特別資本関係を有するものとみなして前二項の規定を適用する。
すると、法人等とその被支配法人があわせて他の法人等の20%以上の議決権付株式を所有する場合に、特別資本関係があるといえる。
よって被支配法人に該当するかが問題となる。
被支配法人については、金商法施行令9条5項に以下の規定がある。
被支配法人等とは、個人又は法人等が他の法人等の総株主等の議決権の百分の五十を超える議決権に係る株式又は出資を自己又は他人の名義をもつて所有する場合における当該他の法人等をいう。
以上の規定より、50%超の議決権株式を保有されている法人が、保有している法人の被支配法人になる。

AB間には、株式保有関係がないので直接はこの規定は使えない。

以上を踏まえて、具体的なスキームは以下のとおりになる。
まずはBはその100%子会社Cを設立する。
B→Cに20%のX社株を譲渡する。これについては、X社株の3分の1を超えないので、上記第二(3)の要件が欠けるので公開買付規制がかからない。
その後1年待つ。
するとCはBの被支配法人なので、X社の株20%を1年保有すると特別資本関係になる。
よってBCのX社株保有割合は特別関係者として合算できる。
BC間においては、金商法施行令6条の2第1項4号でCはX社株50%超(Bと合算して58%)を持っているものになるので、3分の2までは公開買付によらず買い増せる。
よって58%から20%を引いた残りの30%についても公開買付によらず市場外で取引することができる。

その後、Bの持つC社株100%をA社に譲渡すれば、実質的にA社はB社保有のX社株58%を取得したことになる。
なお、C社株は非上場で、有価証券報告書提出会社でもないので、C社株の買付については、公開買付規制にはかからない。第一の(1)参照。




1年待たなければいけないあたりが非現実的であるが、簡単にTOB規制をすり抜けられても困るのでやむをえないか。


金商法施行令6条の2第1項5号とか6号使ってもっとうまくいかないかなぁ・・・・
というかこんなに条文を行ったりきたりしなければならない法律は使いにくいことこの上ない。なんだかよくわからないし。