裁判員法67条1項問題

さて、実はカゲで問題になっている裁判員法67条1項の問題について、軽く。試験も終わったので。


法務省見解
法務省
東京新聞の反対
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2007071502032623.html
落合弁護士の見解
2007-07-16
高野さんの見解
http://cgi.members.interq.or.jp/enka/svkoya/blog/enka/archives/2007_7_13_670.html
http://cgi.members.interq.or.jp/enka/svkoya/blog/enka/archives/2007_7_16_673.html



裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(裁判員法)67条1項に批判が強いようです。
裁判員法67条は以下の通り。

(評決)
第六十七条  前条第一項の評議における裁判員の関与する判断は、裁判所法第七十七条の規定にかかわらず、構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見による。
2  刑の量定について意見が分かれ、その説が各々、構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見にならないときは、その合議体の判断は、構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見になるまで、被告人に最も不利な意見の数を順次利益な意見の数に加え、その中で最も利益な意見による。


となっていますが、この1項を素直に解釈すると、裁判官が3人、裁判員6人なので、判断をするには裁判官3人+裁判員2人、裁判官2人+裁判員3人、裁判官1人+裁判員4人でなければいけないことになります。
すると、例えば、裁判官3人が全員有罪、裁判員が全員無罪とした場合には過半数が無罪としていますが、裁判官と裁判員双方の意見を含んでいないので、有罪の判断も無罪の判断もできないということになります。


それについてそんなことは無いというのが法務省見解です。
刑事裁判においては,犯罪の証明があったと認められる場合に有罪とされ,その証明があったとは言えない場合に無罪とされます
といった書き方をされています。


それについては、反対派からは、実際に法務省が解釈するわけではないので、そのような解釈どおりになるかはわからないという批判があるようです。


これについて個人的見解を述べます。
裁判員の職権は裁判員法6条1項より
事実の認定(同法同条同項1号) 法令の適用(同2号) 刑の量定(同3号)となっています。


従って、同1号より有罪認定をする際には、構成要件該当事実の立証が検察官に求められるわけですが、その際の構成要件該当事実の有無を判断するのが裁判員の主たる仕事となります。*1


そこで、この事実認定について適用される原則がi.d.p.r原則です。
有名な「疑わしきは被告人の利益に」という奴ですね。
刑事訴訟において、構成要件該当事実の挙証責任は全面的に原告たる検察側が負います。
この挙証責任*2とは、事実がノンリケット(真偽不明)になった場合に不利益を負うのはどちらかというものでありますので、挙証責任を検察官が負うということは、検察官が立証できなかったらその事実は無かったものとして扱われるということになるわけです。


刑事裁判における有罪の立証とは「合理的疑いをさしはさむ余地がない程度」が要求されるわけですので、被告人側は、合理的疑いをさしはさむ余地があることさえ立証できれば、その事実はノンリケットになるわけです。*3
ノンリケットになりさえすれば、その事実は無かったことになると。


すると、この場合にも同じことが言えるのではないかと。
有罪というのは、基本的には構成要件該当事実有りということですが*4、裁判官3人は構成要件該当事実ありとし、裁判員6人が構成要件該当事実なしとすると、その事実は裁判体としては真偽不明になります*5
すると、その事実はないと扱われるわけですから、結局構成要件該当事実の欠如、無証明によって被告人は当然無罪となるわけですね。


つまり、刑事司法の原則からして、このような場合は当然無罪になるはずだというのが法務省の見解なわけです。
原則からいってこうなるのは当然でして、そのことについては反対派も認めていると思うわけですが、その原則どおりに解釈運用される保障はないということが反対派の主張なのだと思います。


個人的には、それでも絶対原則なんだからこの通りに運用されるんじゃないかなぁと思うわけですが、恣意的な解釈がされないように法文を変更せよというのも最もかなぁと思いますね。

*1:もちろん職業裁判官もやりますが

*2:客観的挙証責任

*3:もちろん、その事実はなかったと立証できればより安全ですが、そこまでは法的には求められていないのです。実際には安全のために無かったという立証をするわけですが→主観的立証責任へ

*4:違法性と有責性の議論もありますが、これについては検察側が立証責任を全面的に負うわけではないので、ちょっと違います。

*5:裁判体の双方の意見を含む過半数が確保できないわけですので、裁判体として事実存在を認定するには至っていないわけです。