ワインの雫

山岡士郎が、芸術の域まで高められた酒はワインと日本酒だけだと思うといっていました。
僕は、一部の商業主義の例外を除けば酒はすべからく芸術品であると思っていますが、中でも、日本酒、ウィスキー、そしてワインが特別な地位を占めることを否定はしません。
他の酒との違いはなにか?それは、こだわりと多彩さであるといえます。
日本酒は、その醸造過程へのあくなきこだわりから
ウィスキーは、瓶詰めにいたるまでの過程のあくなきこだわりから
同じ種類にくくられるはずの酒であっても、実に多彩な味わいが得られます。


他の酒であってもこだわっているもの、多彩なものはあるでしょう。
しかし、醸造に日本酒ほど神経と技術をつぎ込んでいる酒はちょっとないでしょうし
ウィスキーほど、原酒は同じであっても、樽、熟成年数、ボトラー、そしてブレンド等によって味が幾種類も存在する酒もないでしょう。

では、ワインは?
ワインが他の酒と一線を画するところはどこかというと、「水をつかわないところ」にあります。加水を一切せず、ブドウのみからつくるんですよ。
ワインがもつ特徴的なものに、「ヴィンテージ」があります。スパークリングワインやテーブルワインを除けば、大抵のワイン*1には生産年=ヴィンテージがはいっています。
この生産年とはブドウの生産年です。
水を一切つかわず、ブドウのみから醸造するワインはブドウの出来が大きくワインの出来に作用します。
だから、その年のブドウは、気候的に恵まれたか?でずいぶんワインがちがってくるのです。

本来のヴィンテージとは、ワインがどれぐらいの年をたっているワインかというものをあらわすものではありません。
あくまでも、その年のブドウの出来が問題となるのです。

しかし、ここで誤解しないで欲しいのは、ブドウの出来が全般に良くない年であったからその年のワインがまずいということではありません。
あくまでも、ヴィンテージの良し悪しは、平均したワインの出来の良し悪しであるので、例外がいっぱいあります。
値段は低下する傾向にありますが*2、優れた作り手であれば、オフ・ヴィンテージであっても十分良質のワインをつくります。
オフ・ヴィンテージにこそ、ワイナリーの真価が発揮されるので、オフ・ヴィンテージこそを飲むべきであると考える人もいるぐらいです。
逆にいえば、グッドヴィンテージであれば、比較的凡庸な作り手であっても美味なものができます。

オフ・ヴィンテージには優れた作り手の高価なワインがいつもよりも安価になり
グッド・ヴィンテージには一般の作り手の安価なワインがいつもより良質になるのです。
うまく利用すれば、あまりお金をかけずに良質なワインが楽しめるでしょう。



それ以上に大事なことは、オフ・ヴィンテージのワインは比較的早熟、グッド・ヴィンテージのワインは長熟なワインができるということです。
つまり、ヴィンテージがいったい何のためにあるのかは
ワインがどれぐらい古いものかを判断するためではなく
ワインの原料となるブドウがいい出来なのかどうかでもなく
あくまでもこのワインの飲み頃はいつなのか、ということにあるのではないかと思います。

高価なワインのグッド・ヴィンテージ、特にフランスのボルドー産などは、飲み頃が20年以上も先というのが珍しくありません。
若いうちは、渋かったり、すっぱかったりで飲めたモンじゃなくて、「これほんとに高いワイン?」とおもってしまうことも多いでしょう。日本人がワインをあまり好きではないのは、熟成による味の変化をしらない、というのがあるのかも知れません。
「赤ワインは渋くていやだ」という人が多いですからね。熟成され、飲み頃を迎えた赤ワインに渋みはないですよ。


だから、ヴィンテージをみて、この年はブドウの出来が非常によかったから、このワインはまだ飲むには早い。ウチにはセラーがないし、買うのをやめておこうか、とか
この年はあまりいい年じゃないから、このワインは今が飲み頃だから飲んでみようとか
そういうことを考えながらワインを選ぶわけですよ。


しかし、ワインによっては、熟成させれば勿論がうまいが、若くしてのんでも十分うまい、といったものも勿論あります。
逆に、熟成させるより、若いうちに飲めることを目指して作られたワインだって存在します。というより、その試みが成功しているかどうかは別として、ワインの大半はこのタイプのものです。

居酒屋で出てくるようなワインでワインは口に合わないと思ってしまわずに、すばらしいワインと出会えるまで探し続けてほしいとおもいますね。


さて、ヴィンテージというワインの最大の特徴は、ワインという酒をさらに他の酒から画します。
ワインとは「一期一会」である、といえます。
ワインは、いつも同じ味を作ろうとはしていないのです。同じ銘柄だから同じ味というわけではないのです。
年によってワインの味は違います。
去年のワインと、今年のワインは違うワインなのです。

同じ銘柄の酒であれば、同じ味であることを目指すほかの酒とはここが違います。
これは、ワインがブドウのみからつくるということと、ヴィンテージがあるからということから来ているものです。
常に同じ銘柄であれば同じ味を志向するほかの酒と同じ味を目指すとは限らないワイン、この部分が、ワインをして世界最高の酒であり、芸術であるとする根拠であるのではないかと思います。
そして、この特徴が、ワインと人とを「一期一会」の関係にしているのです。


僕の場合ですと、例えばあるワインを3000円でかったら非常においしかった。だから3000円でまた同じものを買おう、とは考えません。
3000円で次のワインとの出会いを探そう、とします。
それはひとえに僕のお金の無さから来ているもので、ワインを楽しむ方の中には、気に入ったワインはケースで買うという人もいらっしゃいますが、僕は貧乏なので、あるワインが美味であった場合、別のヴィンテージのワインを飲んでみることはあっても同じヴィンテージのワインをもう一度のむことはほとんどないです。
さらにいえば、ワインは繊細な生き物です。
どれだけ熟成させたかによって味が違いますし、同じ銘柄でも、大きな樽にまとめてつめないタイプのワイナリーでは樽ごとに味が違いますし、温度によっても味が違いますし、デキャンタージュの有無やグラスの形状*3によっても味が違います。
ワインほど多彩な酒は他には無いでしょう。


だから、ワインを飲むときは常に一期一会。同じ味は二度は味わえないと思って、大事に飲んでいます。




ちなみにシャンパンなどの、ノン・ヴィンテージのワインは、数年のブドウをブレンドすることで一定の味を保っています。
しかし、ブドウの出来がいい年は、特にヴィンテージシャンパンをつくります。
この前のサンパークの茎のドン・ペリニョンのように。
また、幻のシャンパンたるサロンはヴィンテージシャンパンしかつくりません。



あーこんなことかいてたらまたワインのみたくなったー。なんか買ってきて飲もうかなぁ。

*1:といっても種類の問題であって、生産量はノンヴィンテージのほうが多いのかもしれない

*2:同じ銘柄でも、ヴィンテージによって値段は全然違うものも多いです。特に高価なワインは。

*3:一口にワイングラスといってもいくつも種類があります。各ワインごとに適したグラスがあるそうです