Toulmin' Modelの具体例

やあ、ずっととまってしまった。


D:A君の両親は日本人


W:両親が日本人なら、子も日本人


B:国籍法2条1項の規定
(出生による国籍の取得)
第二条 子は、次の場合には、日本国民とする。
一 出生の時に父又は母が日本国民であるとき。
二 出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき。
三 日本で生まれた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき。


R:日本国籍を離脱していない


Q:原則


C:A君は日本人


となる。
  B

  ↓

  W

  ↓

D――――――→Q→C

       ↑

       R

からすると
「Dならば、BによりWなのでRでない限りQとしてCである。」という言語構成が組み立てられるだろう。


この場合には
A君の両親が日本人ならば国籍法2条1項の規定により両親が日本人なら子は日本人なので日本国籍を離脱していない限り原則としてA君は日本人である。』
となるわけだ。


すると上記のToulmin's Modelによるロジックからすると、考慮すべき箇所がより明確になる。
すなわち
Dの事実が正しいか、
Bの条文は本当に存在するか、
Bの解釈から導かれるWは正しいか、
A君はRにあたらないか、
A君のケースはQに反する例外に属しているか、
である。*1

まあ、他の反論箇所もないとは言わないが。


さて、上記のモデルを見ると分かるように、Warrantというものの定義が、DIS界におけるそれとはかなり異なる。
BがないWはwarrant*2でないのである。ただのreasoning*3でしかないのだ。
言葉の意味を考えればおのずと明らかである。
そしてBにあたるものとは、すなわち法、科学的証明、統計、そういったものである。これは、Toulmin's Modelが法学をモデルにしていることからくる。


よって、必ずevi、それも事実に即した、かなり強力なもの*4、が必要なのである。
すなわち、Toulmin' ModelはNDTstyleのDebateにはなじむが、DISとはそのままでは親和性が足りない、ということになる。
たとえば、経験則による証明、論理的思考による証明などが排除されてしまう。
ここで、前回述べた、「事実から論理的に導き出される事象は事実に準じて扱う」ということがそもそも否定されてしまうのである。


ここら辺にToulmin's Modelの現実的議論に当てはめることの限界があろう。
ひとつの手としては、WとBを拡大解釈してやることである。
Wの正当なというのは、Bが存在する、としてやる。
その上で、Bというものを、Wの正当性を説明できる論理、という風にかなり広げてやる。


そうすれば、DIS界にもなじみやすいであろう。いっておくが、今のDIS界ではこの拡大解釈されたBすら存在しないのがほとんどなので、この解釈に従って行っても十分議論は従来より深まる。



さらに、Toulmin' Modelに対する批判が存在する。

  1. WにはBを必要とするなら、Dにもその裏付けが要求されるべき
  2. QやRは、場合によってはDにもWにもつけるべき。
  3. Bは、Wそれ自体を一つのCと見てそのDに当たると考えることもできる。したがって、B→WにもToulmin's Modelを用いなければならず、論理が無限ループする。


よって、Toulmin's Modelは現実的議論を扱うには不足だ、というものだ。
これは確かに正しい。が、あくまでもModelはモデルなのであって、最低限必要不可欠な要素だけで組み立っているものである。必要ならこれを組み合わせて応用・発展させればいいだけだ。
つまり、なんでもこのモデルのチャートに当てはめようとするのではなく、モデルチャートを、現実問題に適用していくことになる。


前者では常に論点は6つになってしまうが、後者ではたとえばW→Bの流れにもさらにToulmin's Modelを当てはめることによって論点がおよそ倍に増えることになる。


  B(D2)

  ↓

  W(C2)

  ↓

D1――――――→Q→C1

       ↑

       R

  B

  ↓

  W

  ↓

D2――――――→(Q)→C2

       (↑)

       (R)


とすれば、いい。
無限ループに関しても、B→Wの関係が説明しなくても分かるほど明確になったところでとめればいいのである。それが最初のToulmin' Modelなら、モデルはひとつでいいことになる。



最後に、注意してほしいのは、このToulmin's Modelはあくまで思考方法の手助けに使ってほしい。これをチャートにしてみんなに見せるべきではないと思う。
Toulmin's Modelの要素6つは、三角ロジックよりも要素を増やすことによって議論の限定を逆に防ぐが、それも完全ではない。思いもよらない反論を思いつく人がいるかも知れない。


さらに、モデルをいくつも組み合わせないといけないような論説をチャートに描いてしまったら、論点が複雑化しすぎる。
三角ロジックをいくつも重ねることと大差がなくなってしまう。
それならフローチャートのほうが分かりやすいだろうと思われる。


あくまでも、自分の思考方法と、納得させられるプレゼン方法の補助としてToulmin's Modelと付き合っていってもらいたい。


とりあえず以上をもって、俺のロジック講座、現実逃避版は終わりにしたい。もしかしたら補足をかくかも。

*1:実際にどう反論していくかは、この場ではおいておくが、ひとつの例として、N/SolはWかBで、PMAはRかQで扱うものであるといえる。

*2:正当な理由、根拠

*3:論法、推理、推論、論理的思考

*4:専門家の意見では足りない。