ブルドッグとスティールパートナーズについて
どうも今朝の読売新聞読んだんですけど、どうも記事の視点がずれているので、ちょっとだけ感想を。
興味ない人は読まないことをお勧めします。
あと、なにぶん初学者の感想なんで間違っていたらすいません。指摘してください。
ブルドッグの買収防衛策は、もうTOBが始まっていたので事前の防衛策でなくて、ニッポン放送のときと同じ有事の防衛策なんですね。
んで、その防衛策は差別的行使条件付新株予約権の無償割り当てです。つまりスティールにだけ新株予約権行使ができないようになっているわけです。
1株あたり3株分無償割り当てをしているので、他は4倍の株式になるのですが、スティールは従来の分しか株をもてないので、そうするとスティールの株式数が相対的に4分の1になるので、経営権を握れなくなるのですね。
ただ、それだとスティールパートナーズに損がでるので、ブルドッグが、スティールパートナーズに新株予約権を行使はさせないが1個当たり396円*1で買い取るということになっているわけです。
んで、こっからが大事なのですが、ここが新聞には書いてない。
つまり、買収防衛策が法律的にどうなのかという問題なわけなのです。新聞は自分の利益重視のスティールを乱用的買収者として裁判所が認めなかったみたいなこととか、ストックホルダーからステークホルダーへの転換を追認したとかで、画期的な判決だーみたいなことが書いてありますが、実際にはこの買収防衛策はまず認められるだろうというのは事前の予想であったわけですね。
このブルドッグの買収防衛策は、株主総会特別決議*2を経て、定款で買収防衛策を行使するには株主総会決議を有するという風に定款変更して、定款に基づく株主総会決議による買収防衛策の発動という非常に法律的には手堅い防衛策なのです。
買収防衛策は経営陣の経営権維持だけが目的になってしまわないように縛りをかける必要があるわけですが、こんだけのステップを踏んでいれば、まあ裁判所からストップは掛けられないだろうという会社法学者の予想をきちんと踏襲した防衛策なんですね。
だから、まあこれなら認められてもおかしくないということで、こういう法律上の問題を書き落としている記者さんは会社法の勉強不足ですということになるわけです。
記者さんが書いている解説の経営より利益追求に警鐘というのは、手続的な適法性の争点をすっとばしているのですね。
高裁決定ではこのことについては、手続きについても株主総会特別決議を経ているとさらっと書いてあるんで見落としがちなのはたしかなんですけど。
それに対して地裁決定では、買収防衛策の必要性については最高意思決定機関である株主総会にゆだねられるべきであり、当該株主総会の判断が合理性を明らかに欠く場合に限って対抗手段の必要性が否定されるとなっていて、株主総会決議を尊重しています。
買収防衛策の相当性については、防衛策に至った経緯、当該防衛策が既存株主に与える不利益の有無及び程度、当該買収に及ぼす阻害効果等を総合的に考慮するとなっていて裁判所が自分で判断するとなっているかのようですが、この総合的考慮というのが曲者で、この相当性の判断においてはおそらく相当性について相当に*3欠缺がないと相当性がないという認定にはならないでしょうから、つまり相当に乱暴な手段をとらないと相当性がないという判断にはいたらないと思われますから*4、
この事例ではブルドッグがかなり細かく対価の設定等をしているので、まあ相当性がないと判断するほどの事情はないと思われます。
この地裁の判断だとブルドッグのようにきちんと手続きを踏んでいれば、判断が明らかに合理性を欠くと認められない限り買収防衛策発動は適法となるので、まあ敵対的買収者は負けてしまうというのが相当確実になるわけですね。
高裁でどの程度この地裁の判断枠組みを採用しているかは不明ですが*5、
さらっと読んだところだと、地裁は株主総会決議を尊重に対して、高裁は株主総会決議を相当性を判断するにおいての、手続き的な適正性の一判断要素にとどめて、結局買収防衛策の必要性、相当性を自分で判断しなおしているようにも思えます。
その分なのかどうかしりませんが、やたらとスティールに辛い事実認定になっています。地裁よりぜんぜん辛いような気がします。
おそらくこのスティールに辛い事実認定の部分を記者さんは大げさに取り上げていると思われますが、法的な問題点は代わりに抜け落ちているわけです。
しいていうなら、この買収防衛策発動にあたるまでの手堅い手続きをアドバイスした法律家*6をほめてあげようという感じですかね。
んで法的問題点を語るにおいては、本当に問題になるのはこの事例ではないのです。
ブルドッグはかなり手堅い買収防衛策を導入しましたが、一般に行われている買収防衛策は、定款変更までしないで、株主総会決議による買収防衛策を行っているわけです。
この定款変更がない買収防衛策の株主総会決議は、どんな法的意味があるかはわからないんですね。
裁判所の判断もブランクで、これがどうなるかわからないという。
こっちがどうなるかの方が法的には関心が大きいわけですね。
だからブルドッグのケースは社会的には意味があっても法的にはまあ理論確認といった程度でしかないようなきがします。
どうなんでしょうかね。僕は会社法学者でないのでそこまではわかりませんが。
ただ、このままいくと最高裁判例になりそうなのでそれはそれでという感じです。
今度の会社法で先生がなんか語ってくれないかなぁ。